第1章 住田町の地域づくりの理念

2015年2月16日

○ この章では、本レポートの根幹となる「今後、住田においてはどのような地域を目指していくのか」、「住田の地域づくりの土台となるべき考え方は何か」といった住田町の「地域づくりの理念」を取りまとめている。
○ 本委員会においては、この「地域づくりの理念」を、これまでの住田町の歴史や特性を踏まえつつ、時代の潮流を的確に捉えながら、以下の3本柱に集約した。

1 住民と行政が一体となった地域づくり

○ 当町の家族状況をみると3世代同居率(県平均19.0%、住田町31.4%)は年々低下傾向にあるが、それでも都市に比べるといまだに高く推移しており、このことは地域共同体が連綿と維持されてきていることを意味するものとも言える。
○ かつての「結いとり」などの流れをくむ相互扶助は若い世帯で薄れきつつあるものの、数多い年中行事等を媒介とした地域連帯の精神も都市部に比較すれば格段に受け継がれてきており、このような中、高い公共心を持つ住民が多い。
○ これまでの当町の地域づくりは、この公共心を持ついわば「能動的な住民」と行政が協働しながら行ってきている。
○ この協働システムは明確に法形式で規定されているわけではないが、公民館制度、行政連絡員制度、納税貯蓄組合(現納税班)、地区防犯協会、地区交通安全協会、県内でも希な全戸加入を基本としている地区婦人協議会などのきめ細かい住民と行政の連携の仕組みが複合的に地域社会の中に組み込まれ、それを大方の地域住民が好意的に受けとめている状況がこのシステムを成り立たせている。
○ このことは、まさに「自治の原点」となるもので、基礎的自治体である市町村において最も重視しなければならないものであり、「住民生活の視点」により行政を推進していける原動力となっているものである。
○ 全住民が社員とする無限会社「天・地・人」の活動、総合計画2000人アンケートにおける驚異的な回収率(90%)、35年間町民税完納などがその結実の例である。
○ また、財政事情が悪化している中、住民の価値観・ニーズの多様化や国民の社会参加意識の高揚を背景とし、施策計画段階から実施後までの住民参加・参画の制度化、NPOやボランティアの行政活動への組み込みなどが大きな時代の流れとなっていることは、今後いかに住民と行政の協働が重要であるかを物語っている。
○ 以上のような歴史や時代の要請から判断すれば、当町においては、これまでの住民と行政の協働の流れを、範囲の広がりやきめ細かいシステム化の面などで今日的にさらに発展させていき、住民と行政が互いに補完し一体となった地域づくりを目指していくべきであると考える。
○ そして、施策の結果はもとより住民と行政が協働しているという施策形成過程に「地域の豊かさ=住民の幸せ」や「地域の活力」を求める地域づくりを行っていくことが必要である。

2 きめ細かい行政対応を基本とした地域づくり

○ 前節で示したとおり、当町の住民は高い公共心と伝統的な連帯感・相互扶助の中、良好なコミュニケーションが図られている。
○ 現在の当町の行政は、人口7,000余、世帯数2,000余の良好なコミュニケーションの中で、120名弱の役場職員が住民や事業者だけではできない部分を補完していく形で進められている。
○ この中で、町民が多くの役場職員を知り、また役場職員が一戸一戸の世帯の事情や事業者の状況を十分把握しながら仕事を進めてきていることが、行政施策の効果をより一層高めている。
○ 役場の職員は、担当する個別の専門性(縦の視点)に甘んじることなく住民・事業者等を総合的に見る「横の視点」を常に持ちながら仕事を進めるよう自然に意識ができており、ベテラン職員になると、町内の各地区の状況などに精通し、それを職務に役立てられる能力を身につけている。
○ また、役場の職員は全職員がお互いの顔と名前が一致することはもとより、お互いの仕事の概要を相互に把握しながら連絡・報告・相談できる状況にあり、特にシステムとして明文化されているものではないが、これらのことが当町行政の総合力を高めている。
○ 以上のようなことが如実に表れている例としては、地域住民が安心して生活できるよう行政・医療・施設が連携・一体となって行っている「住田型福祉」がある。
○ 現在、国、地方を通じて行政改革が行われ、1つの問題点として「縦割り行政」の弊害ということがいわれているが、今後の当町においては、都市の「消費住民」を前提とした縦の専門性を前面に押し出した行政でなく、これまでの行政運営姿勢を基本に、小さいながらも「能動的住民」の協力も得ながら、住民・行政・各種事業者・各種団体が良好な関係を保ちつつお互いに多数のアンテナを張りながら「横の視点」を活用し、全体として「目の届く」、「手の届く」、「顔の見える」きめ細かい行政運営を発展させていく地域づくりを行っていくべきである。

<住田型福祉>

本町のように小さい町だから人・地域が全て把握でき、きめ細やかな行政運営ができていることが本町の特徴で、良さでもある。
住民が住田で安心して生活できるためには、行政・県立病院・開業医・消防署・福祉団体・福祉施設等の連携・一体化である。
この連携・一体化を図ることによって全体の実態把握ができ、適切な対応ができる体制が構築されている。
これは県下でも希で誇れるものである。
町民の保健・医療・福祉に対するニーズに適切に対応しつつ、本町の保健医療と社会福祉の量的・質的な確保に加えて、情報システムなどを活用した保健・医療・福祉の連携の推進、多様な主体によるサービスの提供、一人ひとりの健康づくりへの支援などの新たな観点に立った具体的な施策の推進が求められている。
こうした状況を踏まえ、本町の保健医療・社会福祉の基本方向とそれを実現するための施策を明らかにし、町民一人ひとりが住田に生まれ生活できる喜びを実感できる健康安心・福祉社会づくりを目指していく。

 

【住田型福祉概念図】(介護を中心とした例)
心がかようやさしい福祉
住田型福祉概念図

 

3 「農林業」・「自然との共生」を基軸とした地域づくり

○ 今後の当町の振興を考えて行くに当たっては、まずもって当町面積の90%以上が森林であるという大幅な地形的制約があることを念頭に置かなければならない。
○ 先達は、このような地形の中、気仙スギをはじめとする豊富な森林資源や気仙川本支流沿いにわずかに開けた平坦地を活かし、自給自足的な生活を基本に、地に足をつけ黙々と工夫を凝らしながら産業としての農林業に挑んできた。
○ この努力は、従来の作物別の縦割り農政の弊害を打破するため個別農家に着目し労働集約型の複合経営方式を採用し県内外のモデルとなった「住田型農業」や、地場産材の付加価値化と消費拡大を進めるため川上から川下までの木材生産・加工システムの整備を目指し全国的にも注目されている「住田型林業」を成立させてきた。
○ また、農林業は、ブロイラー加工などの食品加工や木材加工、さらには運輸業、建設業、商業など町内各産業に大きな波及をもたらし、当町経済の基礎を築いている。
○ さらに、近年公布された「食料・農業・農村基本法」、「森林・林業基本法」においては、農地・森林が従来の生産機能の他に国土保全、環境保全、水源かん養、良好な景観形成、文化の伝承など多面的な機能を発揮していくことが国民にとって重要である旨、新たに規定されているところであり、当町のような農山村の役割が再評価されてきている。
○ 一方、当町は五葉山、種山ヶ原、気仙川に代表されるよう豊かな自然に恵まれ、これが先達から良好な形で受け継がれており、我が国全体でも環境を価値の中心に転換しようとしている中、当町においては昨年3月に、自然と共生していく町づくりを目指して、当町で初めての理念条例である「環境基本条例」を制定したところである。
○ 以上のように、脈々と受け継がれてきた農林業の歴史や豊かな自然、さらに昨今の社会経済情勢を考えていくと、今後の当町の地域づくりの方向は雇用拡大を図るための施策は講じるものの、積極的に山を切り崩し、田畑を埋め立て、森を開発して住宅団地や工業団地を作っていくような都市的な発展を図ることではない。
○ これまで培ってきた農林業を基本として、民官一体となり地域の特性をさらに活かしつつ、安全安心、地産地消、環境共生などの新しい方向性を加味しながら、新しい「住田型農業」、「住田型林業」の展開を目指して行くべきである。
○ また、こうした農林業と豊かな自然環境を複合的に組み合わせた全町エコミュージアム化(自然生活博物館)やツーリズム(体験観光)の展開など、農林業や自然環境を基軸とした新たな産業の創造や交流人口の増加を図っていくべきである。

<住田型農業>

本町の農業は、米、園芸、畜産等の集約的複合経営形態を特色とし、全国的にもそのモデルとなったものであり、住田町経済の根幹をなす産業として町勢の発展に大きく寄与している。
また、生産活動を通じて、国土の保全や水源かん養など多面的な機能を果たしながら、町民生活を支えている重要産業であることから、将来にわたって安定的に発展させていく必要がある。
今後は、安定的で効率的な農業生産体制の確立と、安全で安心な食料を供給していくことを目指すとともに、環境に配慮した持続的農業の推進、意欲ある担い手の育成に重点をおき、活力と夢のある農業・農村の形成を目指していく。

<住田型林業>

本町の林業は、森林の整備(造林・下刈・除間伐・間伐)から木材加工・流通までの各部門を有機的に結んだ、産業循環を図る地域林業の総合的システム形成を図っている。
しかしながら、最近の木材価格の低迷や林業従事者の高齢化等により、森林整備の遅れた林分が見受けられ、森林の木材生産及び公益的機能の高度発揮が十分なされるか懸念されているところである。
このようなことから、今後は、地域林業の活性化、とりわけ、豊富な森林資源が循環できるシステムを構築し、環境に優しい負荷のかからないエネルギー対策や持続可能な森林経営を目指す森林認証といった環境に配慮した新たな住田型林業を目指していく。

 

【 新住田型農業の概念図 】
新住田型農業の概念図

 

【新住田型林業概念図】
日本一の森林・林業の町を目指して
(1) 川上から川下までの林業振興
新住田型林業概念図
(2) さらなる振興策
(1)木質バイオマスエネルギーの活用
  • 木質燃料製造施設の立地
  • 木質ペレットボイラー・ストーブの導入
(2)森林管理認証・加工流通認証取得
  • 森林保全、適切な管理に基づく資源の有効利用
  • 地域産材の流通促進による需要拡大
  • 森林、林業へのプレミア
森林(もり)の科学館
構想の具現化