序章

2015年2月16日

1 研究委員会設置の趣旨・目的

○ 21世紀を迎え、我が国は、かつての高い経済成長が望めない中、史上例のない人口減少時代を間近に控え、少子高齢化への対応、環境との共生、高度情報通信社会における新しい各種システムの構築など、様々な課題が山積している。
○ このような課題に対応していくためには、従来の中央集権的な国と地方の行政システムでは限界があることから、身近なことは、そこの地域の特色・特性を活かしながら身近なところで決定・実行していくという自立的な地方自治の実現を目指し地方分権一括法が平成12年4月に施行された。
○ 税財源の移譲の問題など更に検討を要する重要課題は残されているが、自治体の長を国の機関と見なし、国による地方コントロールの根源とされた機関委任事務が全て廃止され、自治体の権限・判断で行える自治事務の大幅な拡大が図られるなど、従来の国と自治体の枠組みが大きく変わったことは、自治体にとって新しい時代の到来にほかならない。
○ 同時に、この分権による権限の拡大により、自治体はいかに住民へのサービスを提供していくかを「自ら考え、自らの責任で」実施しなければならず、従来の行政運営の抜本的な見直しを進めていく必要に迫られている。
○ このことは、自治体の施策の展開如何や自治体職員の能力差によっては自治体間において福祉、教育、環境施策などの行政サービスに差が出ること、換言すれば自治体間競争が激化していくことを意味しており、これまでの国や県の指示によって事務を執行していれば事なきを得るといった感覚では、もはや自治体を維持していくことは困難であると考えられる。
○ このため、自治体は、かつて例のないほど厳しい財政状況の中、これまで以上に地域の振興・福祉の向上のために「何を特色として、何に選択・集中していくのか」いわば「地域をいかに経営していくのか」を、自らの責任において明確にし、その方針をベースに民官一体となって地域づくりに取り組んでいく必要がある。
○ そして、この「地域経営」のあり方を自治の主役である住民に示す必要がある。
○ 特に、住田町としては、留まることを知らない過疎の進行、極端な少子高齢化など、町の存続に関わる重要課題が目の前にあり、これらの課題に対し「いかなる経営」により対処していくのか町全体で真剣に議論していく必要がある。
○ 一方で、昨今の市町村行政における話題の中心となっているのが市町村合併の問題である。
○ 地方分権の受け皿を強化する必要性、国・地方を通じた財政状況の著しい悪化などを背景に、市町村の行政サービスを維持・向上させ、行政としての規模の拡大や効率化を図る観点から、平成12年11月に地方分権推進委員会から「市町村合併の推進についての意見」が出された。
○ それ以降、国においては合併特例法の改正、「市町村合併支援プラン」の作成、3度にわたる「指針」の策定などにより市町村合併への推進姿勢を強めてきている。
○ 県においても、「広域行政推進指針」や「市町村合併支援プラン」の策定、2度にわたる県民向けパンフレットの配布など、市町村合併に対する積極的な支援姿勢を示している。
○ また、当町とともに長年気仙郡を形成していた三陸町は、平成13年11月に大船渡市への編入合併に踏み切るなど、町民も市町村合併を身近な問題として捉え始めている。
○ このような中、町としては現時点での市町村合併に対する基本的な考え方を町民に示し、説明していく責任がある。

○ 以上のような状況を踏まえ、町においては主に次のことを調査・研究するため、全課長による「地域経営研究委員会」を昨年4月に設置した。

  1. 当町の地域づくり(地域経営)についての理念
  2. 市町村合併の動きに対する当町の基本的な考え方
  3. 自立・持続していける住田町を創造していくためのプロジェクトの発案

○ このレポート(報告書)は、その調査・研究の成果を示すものであり、幅広く町民に公開し、これからの地域づくりに対する意見交換の「たたき台」にしていくものである。
○ なお、今後の町勢発展のための具体的な方向・施策は、現在、町民の広い参画を得て策定作業中の「総合発展計画」や「行政改革大綱」の具体化の中に示されていくものであるが、その検討の中で本レポートの内容等が反映されることを期待するものである。

 

2 本レポートの構成

○ 最近の市町村行政のあり方をめぐる議論の中心は「合併するか、否や」となっているきらいがある。
○ そして、その大部分は財政問題や公共施設整備からの合併論議となっている。
○ 特に、特例期限が迫る中、合併した場合の財政的支援などの「アメ」目当ての方策や、「アメ」を舐め損ねるのではないかという不安やあせり、損得勘定などが議論の中心にさえなりつつある。
○ しかし、この議論は地域づくり(地域経営)を考える点において本末転倒である。
○ そもそも、市町村合併は地域づくりの考え方そのものでなく、1つの手段(方法論)に過ぎないものであり、市町村合併それ自体のみを目的とした議論は住民や行政にとって大きな意味を持たない。
○ 手段(合併)を議論する前に、まずもって「これまでの町づくりの歴史や地方分権により強化された権限等を背景に、今後、住田としては何を基本に地域づくりを行っていくのか」といった「地域づくりの理念」を明確にしていく必要があり、これが最も優先されるべき研究課題である。
○ 合併を議論するのであればその上で行われるべきものであり、「地域づくりの理念」のない合併議論(手段の議論)は無意味である。
○ したがって、本レポートにおいては、最初に、今後の住田地域の「地域づくりの理念」をどうするかということを取りまとめ、これを第1章としている。
○ その上で、今後の住田の地域づくりの理念を踏まえた「手段としての合併の適当性」についての基本的な考え方や、その考え方を成り立たせるための条件を提示し、これを第2章とした。
○ さらに、第1章、第2章の理念や考え方を背景とし、住田町が自立・持続していくための具体的プロジェクトを「プロジェクトS」として第3章において提案している。
○ また、今後の住田の地域づくりにおいては、町民の皆さんの協働・参画が必要不可欠であることから、第4章を「町民の皆さんへのメッセージ」とし、そのことを中心に呼びかけを行っている。
○ なお、今後の地域づくりや市町村合併に関する議論の参考となると思われる資料を最後に添付している。

 

地域経営に関するレポート(概略図)

 

地域づくりの理念
(1)住民と行政が一体となった地域づくり
   【キーワード:相互扶助、地域連帯の精神、能動的な住民、協働システム】
(2)きめ細かい行政対応を基本とした地域づくり
   【キーワード:町内状況精通、横の視点、民官相互のアンテナ、「目の届く・手の届く・顔の見える」行政】
(3)「農林業」・「自然との共生」と基軸とした地域づくり
   【キーワード:当町の経済の基礎である農林業、新住田型林業、新住田型農業】
矢印下(上記理念の現実に向けて、手段としての合併の是非?)矢印下
市町村合併に対する基本方向
結論・・・『当面は現行の「住田町」で自立・持続』

 

理由(合併推進への対抗視点)
   (1)個性的な地域づくりの基礎となってきた現在の体制・規模を壊すことへの疑問
      【キーワード:地域づくりに自信、規模・体制の町民への浸透、協働・参画の住民意志、本来の自治】
   (2)効率化のみを論ずることへの疑問
      【キーワード:人口密度、都市と農山村、多様な国土】
   (3)特性の異なる地域と合併することへの疑問
      【キーワード:産業の基軸、住民指向、個性の埋没】
   (4)都市の周辺部より独立農山村を目指す
      【キーワード:歴史的事実、中心の欠落、議員数の大幅減】
   (5)持続可能な財政状況
      【キーワード:先達の努力、比較的健全、重点化・効率化、過疎特例等の活用】
   (6)その他
      【キーワード:時間距離、昭和の大合併、地形、面積】

 

   ※ 西尾私案に対する見解
      『ポイント:町村評価、多様な自治体、自主的合併、非合併の後、事務権限再構築、逆発信』
   ※ 遠野市広域行政研究会報告書に対する見解
      『ポイント:きめ細かさ、住民意識、特性の担保、広域的な連携』
矢印上(自立・持続のためには下記の条件及びプロジェクト達成に向けた努力が必要)矢印上
自立・持続のための条件
(1)町民の協働・参画
(2)役場職員の意識転換・能力向上
(3)行財政運営の効率化・健全化
(4)広域対応の推進
★ 4条件全てが成り立たなければ自立・持続は困難
プロジェクトSの創造
(1) 「森林・林業日本一の町づくり」プロジェクト
   【方向:現システム発展、新課題対処、木・森ベースの地域づくり】
(2) 「宿場・賑わいルネッサンス」プロジェクト
   【方向:交通量の活用、住田型産直、資源発掘、地域内付加価値】
(3) 「地域協働システム構築」プロジェクト
   【方向:民官一体、協働・参画、情報共有、民間能力活用、自助・互助】
 矢印下  矢印下
町民の皆さんへのメッセージ
  • 協働・参画への呼びかけ
  • 役場の決意
  • 挑戦への呼びかけ
  • 議論の呼びかけ